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札幌高等裁判所 昭和28年(う)540号 判決 1954年4月27日

控訴人 被告人 東只一

弁護人 水戸野百治

検察官 鷲田勇

主文

原判決を破棄する。

本件公訴を棄却する。

理由

弁護人水戸野百治の控訴趣意は同弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりであり、被告人の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書及び控訴追加趣意書記載のとおりである。

弁護人の控訴趣意第一点及び被告人の控訴趣意(いずれも不法に公訴を受理した違法)について、

国税犯則取締法(法と略記する)第十四条第一項は「国税局長又ハ税務署長ハ間接国税ニ関スル犯則事件ノ調査ニ依リ犯則ノ心証ヲ得タルトキハ其ノ理由ヲ明示シ罰金又ハ科料ニ相当スル金額、没収品ニ該当スル物品、徴収金ニ相当スル金額及書類送達竝差押物件ノ運搬、保管ニ要シタル費用ヲ指定ノ場所ニ納付スヘキ旨ヲ通告スヘシ」と定め国税犯則取締法施行規則第九条は「国税犯則取締法第十四条ノ通告ハ通告書ヲ送達シテ之ヲ為スヘシ」と定めている。また法第十七条は「犯則者通告ヲ受ケタル日ヨリ二十日以内ニ之ヲ履行セサルトキハ国税局長又は税務署長ハ告発ノ手続を為スヘシ但シ二十日ヲ過クルモ告発前ニ履行シタルトキハ此ノ限ニ在ラス」と定めるとともに、法第十六条第一項において「犯則者通告ノ旨ヲ履行シタルトキハ同一事件ニ付訴ヲ受クルコトナシ」と定め、しかして法第十三条第十四条第二項において収税官吏国税局長又は税務署長が直ちに告発を為すべき場合を規定している。それ故に間接国税犯則者に対しては法第十三条第十四条第二項の場合を除くの外は、先ず法第十四条第一項の通告を為し、犯則者が其の通告の旨を履行しないときにおいて初めて告発を為し、検察官もここにおいて公訴を提起し得べく、犯則者が其の旨を履行したときは刑事訴追を免れることができるものといわねばならぬ。かくの如く、通告処分は犯則者を訴追する条件たるものであるから、一犯則事犯につき数人の犯則者がある場合には犯則者の個別に通告がなさるることを要するものと解するのが相当である。

ところで本件公訴事実は、被告人は留萌新聞共同販売所の所長として業務全般を統括する地位にあつたものであるところ、同販売所の使用人である荒木嘉市及び穂坂敏明等が同販売所の業務に関し発行した領収書に印紙税法所定の印紙を貼用しなかつたと云うのであるが、原審で取調べた荒木嘉市、伊藤賢治、青木昇及び被告人の検察官事務取扱検察事務官に対する各供述調書によると、留萌新聞共同販売所は被告人、伊藤賢治、青木昇、及び米谷伝助の四名が民法上の組合契約に基き経営している共同事業なることが明らかであるから、前記使用人の違反行為については被告人等四名が夫々印紙税法第十四条の二の責任を負うべきものであり、四名がそれぞれ反則者と云われるわけである。この場合四名全部にそれぞれ通告すべきか否かはしばらくおき、被告人を告発するがためには、法第十三条第十四条第二項所定の事由のない限り被告人に対し法第十四条第一項の通告処分が為さるることを要するものといわねばならぬ。しかるに、本件において被告人に法第十三条第十四条第二項所定の事由ありと認めるべき資料はなく、また前記被告人の供述調書によれば被告人に対して叙上の通告が為されていないことが明らかである。尤も本件記録を調査すると、昭和二十六年三月二十日附を以て留萌税務署長高橋渡から留萌新聞販売所を名宛人とし、右共同事業の営業所に配達された配達証明郵便を以て前記犯則事犯につき通告が為されていることが認められるが、留萌新聞共同販売所と云うのは、前記のとおり共同事業の称呼であつて、被告人個人の商号ではないから、これを以て被告人に対する通告と見ることはできない。

しからば、本件犯則事犯については被告人に対し適法なる通告処分がないから、被告人に対し更めて通告を為し、その不履行の場合税務署長の告発をまつて公訴を提起すべきものであつて、本件公訴提起手続は法律に違背し無効であるから、これを棄却すべきものである。しかるに原判決がこれを看過し被告人に対し有罪の判決をしたのは不法に公訴を受理した違法あるものであつて破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて弁護人及び被告人の爾余の論旨に対する判断はこれを省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八条第二号により原判決を破棄し同法第四百条但書により更に判決することとし、本件公訴提起の手続は叙上説示のとおり無効であるから、同法第四百四条第三百三十八条第四号により本件公訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 熊谷直之助 判事 笠井寅雄 判事 松永信和)

弁護人水戸野百治の控訴趣意

原判決には左記の違法があるので到底破毀を免れないものと思料する。

第一点本件は原審が不法に公訴を受理したか又は訴訟手続が法令に違反した違法がある。(イ)即ち本件は国税局長又は税務署長の告発を待つて公訴を提起すべき事案であり、且右告発がないか又はそれが不適法の場合は仮りに公訴があつてもそれは訴訟条件が欠缺するものとして棄却せらるべきものである。然るに記録に編綴されている留萌税務署長の告発書及び告発の前提条件である通告書にはいづれも被告発者名として留萌新聞販売所を掲げている。ところで右新聞販売所は検察官に対する伊藤賢治、青木昇、被告人の各供述調書の記載から明かなように法人格なき民法上の組合であつて被告発者としての適格を欠く者である。しからば右告発及通告は国税犯則取締法第十三条、第十七条に所謂犯則嫌疑者たる適格がない者になされたものであつて、無効なものと言わなければならない。だとすれば本件公訴も亦不適法なものとして棄却されなければならない。(ロ)仮りに右告発が有効であるとしても告発書及通告書記載の被告発人は留萌新聞販売所、領収代金は新聞領収代金であるのに起訴状記載の被告人は東只一領収代金は官報及グラフとなつて居りその間に同一性を認めることはできない。しからば本件公訴は国税局長又は税務署長の告発なくして提起された訴訟条件を欠くものとして棄却されなければならない。

第二点原判決は審理不尽か採証の法則を誤り事実を誤認した違法がある。即ち原判示第二、第四、第六の事実は領収代金をグラフ代金であると認定し又第九の事実中領収書交付年月日を昭和二十五年十月頃と認定している。而して本件においては前者は如何なる受取書に貼用すべき印紙税を逋脱したかと言う点と受取書の同一性の点に於て後者は印紙税法違反の既遂の時期の点に於て極めて重要なことである。しかるに記録に現れた証拠を綜合考察してもかかる認定をなすことは到底不可能であり且右事実誤認は判決に影響を及ぼすことは明かである。

被告人の控訴趣意

原判決は不法に公訴を受理した違法がありますのでこれを取消し公訴を棄却するとの判決を求めます。私に対する印紙税法違反事件はその反則とする処は印紙の不貼用でありますから右事案は明かに国税反則取締法により処理せらるべきものであります右取締法十四条には「税務署長は犯則の心証を得たときは其の理由を明らかにして罰金若しくは科料に相当する金額及び送達の費用を指定の場所に納付すべき旨を通告すること」また十六条には犯則者通告の旨を履行したときは同一事件につき訴を受ける事なし」十七条に犯則者通告を受けた日より二十日以内に之を履行せざるときは税務署長は告発の手続をなすべし」と定め右通告書の交付方法について国税反則取締法施行規則の九条に「法十四条の通告は通告書を送達してこれをなすべし」十条にはその送達の方法を「使丁による送達」又は「配達証明郵便による」旨を各定めて居ります。右法律の定めるところは要するに税務官署に前司法的厳格な手続により犯則者に罰金等と同額の金員を国に納付する事により司法処分を受ける事のない旨を定める一方税務官庁に対し犯則嫌疑者若しくは参考人に対し質問臨検ソーサク若くは差押の強権を発動する権限を与えているので税務官庁は右権限を行使して犯則者を認定しこの者に対し犯則の通告処分をなすべき職務上の義務を課しているのであります。従いまして税務官署は厳格な手続により通告処分をなし之が所定期間内に履行されなかつた場合に限り初めて犯則者を告発する事を得又検察官は其の告発を受けた者に限り有効に公訴を提起する事が出来るのであると考えます。右通告迄は税務官庁がこれを行い告発後は通常の刑事手続によつて事件の審理が進められるのでありますから通告処分は刑事手続の一前行手続として其の手続及対象者の特定には極めて厳格に解釈進行すべきは事柄上当然でなければならないと思います。処で本件では税務署長は自然人若くは法人でない単に営業名であるに過ぎない「留萌新聞共同販売所」を反則者としているのであります。これは反則責任を追求する当事者としての表示としては不適当であり犯則者として法律上取扱う事が出来ない反則者の表示であり前記の理由からこの通告は不適法であつて従つて法律上効力を生じないものと考えます。それでこの通告の履行がなくして採られた告発及びこの告発を基本とする本件の公訴も不適法となるものと考えるのであります。右の様に「留萌新聞共同販売所」を反則者としたのは自分の想像するところが正しければ反則者が何人であるか、又は法人であるかを当局者が職務上調査を遂げなかつた結果でないかと思います。右販売所は法人でない事は勿論であり私人でもありません、税法から言いましても法人又は通常人丈けが処分の対象になるものであつて右の様な販売所は対象になりませんことは問題がないと思います。税務署としましては其の職務柄課税の事務上法人か通常人かという事はよく判つていたのであり右販売所の営業に携つている青木昇氏に課税されて居ります。税務所は本件反則について何人に責任があるかを良く調査されて通告処分をされたなれば今回の事件は生じなかつたものと思います。それは仮りに反則が何人によつて行われたかをよく調査されたなれば或は私一人時には共同経営者である青木昇伊藤賢二氏の誰か一人場合によつては其の全員に対し反則の通告があるかも知れませんが若し私一人が責任者と仮りに認定される根拠が適法に存在するなら私に通告があつた筈です。其の場合仮りに私に責任がありとするならば裁判を受けて罰金の言渡を受ける前に必ず其の責任を果しているからであります。私としては右「留萌新聞共同販売所」は青木昇伊藤賢二東只一の共同経営という事になつて居りますがこれは私達共同者が以前(大戦前)経営していた新聞販売業を統制のため統合して売店として青木昇氏の店舗に営業所を置き青木氏が業務担当者となつて居り諸取引先に対する代金の請払等外的には「留萌新聞共同販売所」青木昇と表示して来たのでありこれは業務担当者として当然の事であります。私としては印紙税法の反則については反則を防止する事の出来る直接の立場に在る者が之を負い法人の場合はその当務者を罰する許りでは足らず監督の立場にある者も多大の責任を負うのを相当とする場合に法人をも処罰出来るものと考えます。私は共同販売所の所長という事になつて居りますが住居は右販売所とは別であつて菜種商を経営している者であります。反則は新聞の集金人が印紙の貼用してない少額の領収証を発行したのであります。この領収書は即ち販売所の事務全般を担当している業務担当者青木昇氏の監督の下に作成されたものであり私は所長として四六時中販売所にいた訳でありませんので事務の全般を見て居りました青木昇氏に一番事故を防止する機会があつたのであります。其れでも所長である私に反則の責任を問うのが相当でありますかどうか私は税務署が其の辺の実情を充分納得のゆくまで調査をされた結果公平に見て(所長であるが故でなく事故防止可能の状態にありとして根拠調査されて)私に事務担当の青木氏以上に社会的に非難される理由があり青木、伊藤氏等の共同者を除いて先づ第一位に反則嫌疑者として通知を受けるべきであると決定通告がありました場合は私にその反則の通知(告)ありその通告を私が履行しなかつた場合に限り私は今回の様に裁判を受けますがその通知を私個人に発せられる事なく反則の領収証が「留萌新聞共同販売所」とあるからとしてその営業名で通告して告発があり税務署が充分の調整をされる事なく「私が通告を受けた時は指定の方法でこれを納付し行政上の処置ですませ司法処分を免れる途がありながら今回の司法処分となつたのであります。私は司法処分を免れる法律上の処置を受ける途を失わされたのでこれは憲法の保障する法律上の平等の処置を受け得る権利を失わされた事ともなります。本件の税務署長よりの告発は不適法と考えますのでこれを基本とした公訴の提起は適法の公訴でなく棄却され改めて私に対し反則なりと言われるのでありましたら通告の処置を願います。何れにしましても東只一宛に通告がなければ東只一に対する公訴は不適当と考えます。人によつてはこの留萌新聞共同販売所宛の通知(告)が有効であつて私はその通知(告)を知り得べき状態にあつたという様な趣旨を根拠として私の場合は通知(告)告発起訴は有効というかも知れませんがそれは通告が有効と前提して初めて通告が通常受ける者の許に着いて居りそれを法人が閲読了解する機会があるのに何らかの為に閲読しなかつた場合に初めて通告者の許に着いている書面を本人が了解し得べき状態にあつたので本人が閲読しなくとも社会的に見て本人が其の事があつたと同様に処置しなければこれを無にする事は不当であるという場合に言い得ることであつてこれは同一家庭とか同一事業所又は極く限定された場所的に言える事でありまして当然了解し得べき状態にあつた場合に適用される限定的のものであると思いますが私の場合は住所も違い別に営業所を持ち新聞販売営業の実務に当つていない場合であり本件のときは私は検察庁より呼出を受ける迄は通知(告)の事を知らずに居りましたものですからこの理論は当らないと思います。そればかりでなく知り得べきであつたという場合はその通告が東只一宛に来て居つた場合には知り得べきであつたという事が出来るかも知れませんが通告が個人宛でなく無効と見らる可き場合には理論が一貫しないと思います。実際問題としましても「留萌新聞共同販売所」宛の反則通告書はその事業所に常住して共同事業の業務担当者青木昇氏の手に入り業務全般の責任を担当する同人がこれを受領しても担当者としての責任上先づ第一にその責を自覚される立場にあり且つこれを処置すべきのが共同経営業態上の業務担当者の任務でもあります。この点よりしましても私が本通告を知らずにいた事は社会的に見て業務担当者が斯様な不始末を公言して他の共同者の出損を求める事の有り得ない事は事理の当然誠に明白であろうと思います。事柄が金銭で解決し得べき性質上の場合は尚更であり事実青木氏は自分で納付しようと思つていたのがついその事に出なかつたのは記録上に明白であります。此の事実のある場合尚更販売所宛の通告が私に了解されていたと認める積極的な証明はないのが当然であります。販売所宛の通告は本件の場合通告としては無効であると考えます。反則事件の場合税務署が反則者(法人又は自然人)を確認する法律上の義務があり反則者に対しこれの履行がない場合初めてその反則者を告発しこれを検察官が起訴すべきであり営業名で行う右通告は無効と考えます。本件の様な場合告発だけあれば告発の本旨とする処の反則者を司法処分出来るとの説があるかも知れませんが、それは事案によりけりで告発があれば公訴を受理出来る事案に通用出来る理論であつて本件のように先づ反則者を確立してこれに通告することを厳格に要求するものでこれを司法処分の前提とする場合には適用されないと思います。販売所宛に通告があつた場合共同経営者全員に通告が有効であるとの見解を与える事は法律が定めた厳格な通告を要求する本件の場合適当でありません。東只一宛に通告がなかつたことは本件の通告書の控配達証明書の記載により明らかであります。税務署の認定により犯則者が万一私であるとするならば裁判上の罰金を言渡さるゝ前に行政庁へ罰金相当額を納付する機会を与えて下さる様望みます。この希望は自分の直接の不始末を表明しての願ではなく法律上与えられたところのものであると考えるからであります。司法上の罰金を言渡される事は不肖ながら若干の公職と言わるゝものに微力を捧げているものでありこの事は将来身分上にも悪影響があるものと思いますから是非行政処分を受ける機会を与えられますよう切望致します。

被告人の控訴追加趣意

原判決は不法に公訴を受理した違法がありますのでこれを取消し公訴を棄却するとの判決を求めます。私に対する印紙税法違反事件はその反則とする処は印紙の不貼用でありますが、公訴事実の内容中前後六回の官報代金の領収書には印紙の貼用必要なきものと信じます。官報は国の印刷局より発行せられその取扱は販売でなく取次ぎであつて例へば収人印紙、郵便切手等と同様その代金の領収証には印紙貼用を要せぬものと思いますので追加申告致します。尚新聞の発行並販売事業は従来よりその公益制を認められ営業税若くは事業税を免ぜられています。

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